高額のアルバイト

治験 高額のアルバイト/私が体験した実話の怪談・奇談
都市伝説的に危険な高額のアルバイトがあると言いますが、大学生生時代の鹿児島での奇談です。

大学に入学して少し経ち、交友関係もある程度固まってきました。私が入学した学部は偏差値的には高くないためか、学生の質もピンきりでした。

私の交友関係はどちらかというと15人ぐらいの輩(やから)なグループで、入学して1年目早々から出席の代筆や代返を頼む者が割といました。

朝、自転車に乗って大学に向かっていると道路沿いのパチンコ店に新装開店待ちの列ができていて、その列の中に友人が並んでいることも少なくありませんでした。

パチンコ開店待ちの列の中に友人をみかけると「代返しとくから勝ったらおごれよ!」と声をかけていましたが割とこの声かけでおごってもらうことが多かったです。

たぶん1番豪勢におごってもらったKという友人がいましたが、木村拓哉似のイケメンでした。

Kは一浪したあと家出同然に鹿児島の大学に入学して、授業料は自分で払わなければならないということも聞いていました。

複数掛け持ちでアルバイトをしていましたが、そのアルバイト代よりもパチンコで稼いだ金額の方が多かったようで、2年生になった頃にはアルバイトをやめてパチンコだけで生計を立てるようになりました。

大学2年生の4月中旬、ゴールデンウィーク前の輩飲み会の最中に連休をどうするかなど話をしていた。

連休中に実家に帰る者、サークルの合宿がある者、九州一周のツーリングに挑む者、バイトがある者とそれぞれでしたが、Kにパチンコの仕草をしながら「ゴールデンに稼ぎ時?」と問いかけてみると「いいや」と意外な返答が返ってきた。

「何すんの?」「女と旅行か?」「パチンコ卒業?」など質問していたがKは一言「高額なバイト見つけた」と。

その後も「死体洗いか」「臓器でも売るのか?」「漁船に載ってインド洋か?」など好き勝手に質問していたがKは厭らしい笑みを浮かべるだけで内容は教えてくれなかったが「だいたい3泊4日で38万」とだけ教えてくれた。

「だいたいって曖昧なのは何だ?w」とも突っ込みましたが、「バイトが終わったら教えてやるよ」とだけであとは何も教えてくれなかった。

ゴールデンウィーク明け、講義室に入ってきたKは三角巾で左腕を吊っていた。

「何があった?」「バイクでコケたか!」など輩グループでKに駆け寄ったがKは笑って首振って「あとで話すわ」とだけ言って、講義を受けた。

Kは私の横に座って講義を受けていたが(当時は携帯電話ではなくまだPHSが主流だった)ノートの端で筆談を始めた。

「治験って知ってる?」

当時まだパソコンを個人で持っている学生は少なかったが、私は恵まれていて大学入学祝いに両親からノートパソコンを買ってもらい、夜な夜な怪綺談や都市伝説について閲覧しまくっていた。

その都市伝説の中に死体洗いのアルバイトや人体実験のアルバイトの話があって、治験とは後者のアルバイトだとピンときた。

「人体実験なんて本当にあるのか!」と筆談を返すと「あるある!」と返ってきた。

この講義は200人程度収容できる教室で席がひな壇上になっていたが、後ろに座って筆談を除き込んでいた輩グループのリーダー格のSが「マジか!」と声を上げてしまい、教授から「講義の邪魔をする者は出ていきなさい!」と注意された。

このあとも色々と筆談で問答を繰り返したが、熱中し過ぎてまったくこの講義の内容は聞いてなかった(笑)

午前中の講義が終わると食堂に移動してKを中心に席に座った。

Kから「他言無用の誓約書も書かされたから騒ぐなよ。」と念を押されたが、みんな何があったのか聞きたくて仕方なくて興奮していた。

K曰く、パチンコ屋でよく顔を合わせるオッサンから「いいバイトがある」と誘われて行ってみると認可前の薬を飲んで毎日朝昼晩の3回、血液を採られるという内容。

施設には外が見えないように加工されたバンに載せられ、病室から出られず監禁状態。テレビを見るか、言えば雑誌や漫画も買ってきてくれるが食って寝るだけの生活を3日間。

血液検査や病状に応じて入院?期間が長くなるのでだいたい3泊4日という話だったらしい。

しかし、薬を飲むだけで骨折は関係ないと話を聞いていた輩一同思ったのだがその先がまだあった。

3泊4日の治験が終わって帰り支度をしている際に呼び止められ、「骨折実験に参加してくれたら報酬を更に払う。その後の治療費もこちら持ちです。」と言われたそうだ。

「とりあえず1年分の授業料は稼ぎ終わった。」とKはサラッと言い放ったが、話を聞いていた輩一同は骨折実験という言葉に絶句していた。

このあと、輩グループから治験に参加する者が数名いたが骨折して帰ってくる者は流石にいなかった。

「1年分の授業料は稼ぎ終わった」と言ったKだったが、その後の金遣いが荒くなり、パチンコに行くことも変わらず、今まで以上に大学で姿を見ることが少なくなった。

夏休み明けに久しぶりにKが大学に来ていたが、姿を見てギョッとした。

痩せこけて肌も艶がなく、極めて病人のようで、木村拓哉似がぜんじろう似に変わってしまっていた。

みんなでどうしたと詰め寄ったがKが言うには夏休みの間にもう一度治験のアルバイトに行ったようだったが、以前の治験よりも高額の報酬だったらしい。

前回と同様に薬を飲んで採血されるという内容だったらしいのだったが、2日目から発疹と発熱、そして下痢が始まったらしい。

たぶん薬の副作用だろう。

治験から帰って来てからもずっと寝込んでいたらしいのだが、ようやく動けるようになったのは最近らしい。

「とにかく栄養がある物と野菜や果物など体に良い物を食え」とみんな口を揃えるように言うとKは苦笑いにも見える笑顔で力なく笑っていた。

数ヶ月間、Kの様子はみんなで見守っていたが、日に日に容態は良くなっていき、肌の色艶も前のように良くなっていった。

ただ容態が良くなってから逆にKは大学が来たり、来なかったりと夏休み前のように戻ってしまった。

みんな「アイツらしい」と笑えるようになったし、私自身はこの頃、別の事件?で自分自身のことに精一杯だった。
※別の事件についてはまた改めて書きたいと思う。

3年の春から研究室・ゼミが決まり、輩グループの全員がなかなか集まることもできなかったが夏休み前に久しぶりに集まろうということになり、私もバイト終わりに居酒屋に駆けつけた。

座敷に上がると一声、二声みんなに声をかけて回ったが、だいたいみんな出来上がっていた。

適当な席に座って生ビールを頼んだが、輩グループのリーダー格Sを見つけたので移動した。

私自身、Sと直接会うのも久しぶりだったので運ばれてきた生ビールを飲みながら最近の話をお互いにしあった。

話が切れた所で思い出して「そう言えば、今日はKは?」とSに訊くと黙り込んでしまった。

まさか…と思ったが。

Sの話によると研究室がKと一緒になったが、やはり来たり来なかったりが続いてたようだが、何よりもお金に困っていたようだ。

以前の治験で稼いだバイト代も荒々しく使ってしまっていたらしい。

「ゴールデンウィークにもう一度、治験に行ってくる」と言うのでSは「前のことを忘れたか!」と喧嘩腰で言ったらしいが、個人のお金・生活の問題なので強制力もなく、止めることはできなかったという。

そしてゴールデンウィーク明けから研究室にも顔を出してないし、PHSに電話をかけても出ないらしい。

「ヤバくないか?」と言ったが、一度止めたSだからこそなのか「自業自得だ。もう忘れよう。」と冷めた顔で言った。

夏休み明けには学生一覧名簿からKの名前は削除されていた。

今でこそ検索エンジンで「治験」と検索するとサイトも広告も表示される時代になったが、約20年前は情報収集の仕方さえも脆弱だったので治験と聞くと人体実験=危険なアルバイトの印象が非常に強かった。


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