子供の頃に大分県別府市に住んでいた時の怪談です。
小学校高学年の頃、M君の家が遊び場になることが多かった。
理由は今考えても単純でファミコン(ファミリーコンピュータ)があったからだ。
当然、ファミコン以外にもいろいろな遊びもしていたが常に2人から3人のクラスメイトが来ていた。
M君の家は学校から下った東側(別府湾側)私の家は学校から南側に位置していたので学校が終わると走って家に帰り、自転車に乗って猛スピードで遊びに出掛けていた。
いつも17時のサイレンが鳴るぐらいまで遊んでから帰っていた。
大分県別府市の地形は山から海にかけて結構な坂の街。
行きは自転車で下り坂だったので早かったが、帰りは登り坂なのでずっと立ち漕ぎするのも大変で帰るのには少し時間がかかった。
いつも途中から自転車を押していたが、ちょうど自転車を押し始める地点ぐらいに古びた2階建てのアパートがあった。
みんな、ボロアパートと呼んでいた。
夕方の時間帯、付近の家からは夕食を作る匂いとアパートからはお経が聞こえてる、それが帰りがけの定番になっていた。
アパートの階段は鉄製だが全体的に錆びていて、所々穴も空いていた。
古びたアパートだなぁといつもお経を聞きながら通っていた。
小学校6年生のあともう少しで夏休みという頃に同じことを思いながらアパートの前を自転車を押しながら帰っていた。
ふと見ると鉄製の階段を登りきった所に赤いワンピースを着た女性がいた。
いつもお経は聞こえていたが人がいる所は見たことがなかった。
赤いワンピースを着た女性はこっちを悲しげな表情で見ているような気がして、ちょっと気不味かったので急いで通り抜けた。
夏休み。
夏休みに入るとほぼ毎日学校のプールに行って、その後学校のグラウンドや学校近くの友達の家で遊んでた。
8月に入るとM君はお母様方の実家に帰省するということと、帰って来てからは夏風邪を引いたらしく、夏休みにM君の家に遊びに行くことはなかった。
二学期が始まって、早速M君の家にみんなで集まることになった。
数名で一度学校に集まってからM君の家に行った。
その日の帰りがけ。
いつもの道を通っていてそろそろお経が聞こえてくると思っていたが聞こえてこなかった。
あのボロアパートがなくなっていた。
たぶん夏休みの間に解体されて更地にされたのだろう。
いつもの風景がなくなっていた事に少しもの悲しさを覚えつつ、家に帰った。
家に帰り着いて手を洗いながら母親に
「あのボロアパートなくなっちょった。」
と話をすると
「ようやく壊したんやなー。」
と解体することが当たり前、待ち望んでいたような返答だったんだ。
「壊されるの知っちょったん?」
と聞くと
「壊されるまで長かったけんなー。もう2年以上人も住んでなかったけんなー。」
2年以上?
階段を登りきった所にいた女性は?
毎回、夕方にアパートから聞こえていたお経は?
ちょっと背筋が寒くなった。